自然の子

 この場で報告するのが、とてもとても遅くなってしまったのですが、9月1日から、盛岡大学短期大学部の幼児教育科に、准教授としてお勤めをしています。

 受け持つのは、非常勤講師のときと変わらず「保育内容『環境』」という科目です。

「環境」は、幼稚園の教育要領や保育園の保育指針において、「健康」「人間関係」「言葉」「表現」と並んで重要とされる項目で、これらは子どもの資質や能力を育むべき「5領域」と呼ばれています。教員養成課程における必須科目、「コアカリキュラム」にも指定されています。

 非常勤講師のときも、重要な科目であることは分かっていたつもりでしたが、専任の教員ではないという立場に甘んじていたことは否めません。

 日々、学校に足を運ぶようになって、改めてわたしに何ができるのか、学生さんに何を伝えておくべきか、熟考しているところです。

 論文も書くことになり、学会にもいくつか入りました。

 長いあいだ、絵本の文やエッセイを書くことを仕事としてきたわたしにとって、書くことは、どんなジャンルでもワクワクする仕事です。

 岩手大学農学部で応用昆虫学を学んだときは、故・鈴木幸一先生に論文の指導を受け、

「とても読みやすく面白いけれども、論文はエッセイではありません」

 と注意されたことを思い出します。

 あれから30年余りが経ったいまになって、再び論文を書くことになり、先生の教えを活かすチャンスが与えられたかと思うと、それもまた、嬉しくてたまりません。

 応用昆虫学は、農学部で昆虫を研究するもの。理学部で昆虫を研究するのとは違い、人間社会に応用できることが重要とされます。

 鈴木幸一先生は、昆虫から生理活性物質を抽出することに力を注いでいました。

 惜しくも2022年に亡くなられましたが、2021年には、認知機能改善効果を持つ物質をカイコの冬虫夏草からとり出し、エスペラント語で「自然の子」を意味する「ナトリード」と名づけたばかりでした。

 虫を飼うことや、仮説を立てることは得意だけれど、何しろ実験が苦手で、鈴木先生にとっては頭の痛い学生だったわたしです。

 せめてこれから書く論文は、読んだ方の役に立つ内容にしたいと、知恵を絞っている最中です。

 思えば「保育内容『環境』」という科目は、自然を含む身近な環境から、さまざまな「よきもの」を子どもに手渡してゆくための学問かも知れません。言わば「自然の子」を育むための方法論とも言えるでしょう。

 わたしたちの身のまわりに、ささやかでも自然があり緑があって、さまざまないのちが息づいている。そのことに喜びを感じ、いのちの糧にできる子どもたちが、たくさん育ってゆきますように。

 それにはまず、保育の世界に旅立つ学生さんたちに、自然の素敵さを感じてもらわなければ……と考えています。

 写真は大学の花壇で。

 日に日に寒くなっているにも関わらず、ミカン科のヘンルーダで育っているアゲハの幼虫。本格的な寒さが訪れる前に、早く蛹になれ、と祈らずにはいられません。