勤め先の盛岡大学短期大学部では、保育者を志す学生さんを対象に「保育内容 環境」という講義を行っている。
子どもたちの多くは昆虫が好きだが、昆虫に苦手意識を抱いている保育者は少なくない。
そこで、学生のうちに昆虫をはじめとする生き物に親しみ、可能な限り嫌悪感を払拭してもらおうというのが、講義の主な目的である。
決して無理強いをしないように気をつけているつもりだが、昆虫の苦手な学生さんにとっては、できれば避けて通りたい講義だというのが本音だろう。
そんな「環境」の時間に、まるで待ち合わせをしていたように現れて、学生さんたちと触れ合ってくれたのが、写真のオオカマキリである。

受講している1学年にはA、B、ふたつのクラスがあり、別日に講義が組まれているのだが、それでもちゃんと、両クラスの時間に姿を現してくれた。
自然や生き物の得意な学生さんが、さっそく手にとってみせる。
すると、虫が怖くて、この授業が苦手だった学生さんも、誘われるように近づいてきて、恐る恐る手を伸ばした。
「シャツのうえからでもいいですか」
「わっ、こっちを見た!」
しばし悲鳴にも似た声があがり、やがて、
「わたし、生まれてはじめてカマキリを触ることができました」
「あっ、カマの手入れをしてる!」
安堵のため息と、小さな歓声に変わっていく。
ひとりが苦手を克服すると、そのまわりで拍手が起こる。達成感が、波のようにまわりの学生さんにも伝わっていく。
「わたしも持ってみようかな」
次々と手が伸びて、カマキリは学生さんの手から手へと渡されていった。
この日、この場所、この時間に、こんなにも凛としたカマキリに出会えたことは、日々の、小さくともかけがえのない奇跡に感じられる。
きっと、虫の神さまが見ていてくれたのだろう。

この日の花壇には、宝石のように輝くセイボウ(青蜂)の仲間も飛来していた。