「102年後の出版祝賀会」の不思議
「102年後の出版祝賀会」の不思議

「102年後の出版祝賀会」の不思議

『注文の多い料理店』の「序」に添えられた日づけにちなみ、「102年後の出版祝賀会」と題して12月20日に開催した朗誦伴奏会は、たくさんのお客さまにおいでいただき、無事に終了しております。

 わたくしは会場に、ガラス製のりんごのオブジェを持参し、ピアノのうえに置きました。開会の挨拶でも、

「きょうは賢治がそこにいるつもりで会を進めます」

 と皆さんにお話しし、

「賢治さん、『注文の多い料理店』のご出版、おめでとうございます」

 と、りんごに向かって語りかけました。それは、ミントグリーンのりんごのオブジェでした。

 会が進み、『注文の多い料理店』に収められた「烏の北斗七星」を読んでいると、何度かマイクにノイズが入りました。

 しかし音響には、腕のいいオペレーターさんをお願いしているのです。あとから確認したところ、

「どうしてノイズが入ったのかは、まったく理由が分かりません。マイクのせいでもありませんし、話し方のせいでもありません」

 と断言なさいました。

 ノイズに気づいたお客さまから、

「賢治さんが来ましたね」

 と言われて、はじめは半信半疑でした。

 しかし、以前に賢治作品を録音してCDを作っていたときにも、賢治がノイズでメッセージを送ってきたとしか考えられない出来事(※)があったのでした。

※韻を踏んでいる箇所で、それと分かるように読まなかったところ、何度も何度もノイズが入り、録音が中断。ノイズはテクニカルなものではないと判明したのち、ようやくわたしが韻に気づいて、それと分かるように読んだところ、とたんにノイズが消えました。

 改めて「烏の北斗七星」のテキストを見直しました。

 マイクにノイズが入り始めたのは、美しい声を持つ娘烏が、あす戦いに赴くという許嫁を案じて夢を見ている場面でした。

 賢治が来た、と言うお客さま曰く。

「この場面を見計らって出てきたんでしょうね」

 確かに……と、わたしも納得しました。この場面には、わたしが賢治の居場所と定めたりんごと同じ、

「青じろい苹果の木」

 という言葉があったからです。

 この言葉をきっかけに、賢治は自らの存在を、会場の皆さんに知らせようとしたのだと思われてなりません。

 おしまいに、会場でも紹介した賢治自作の『注文の多い料理店』の広告チラシの1節をご紹介します。

「そこではあらゆる事が可能である」

 時を超えて存在を知らせることが可能ならば、わたしどもは朗誦伴奏を、時を超えて魂に響く音楽にして、賢治本人にも喜んでもらえるよう、努めていこうと思います。

 ご来場くださいましたお客さま、Cafe Bar West 38の照井顕さん、スタッフの皆さま、ほんとうにありがとうございました。